街に溢れるイルミネーション。
行き交う人々の、笑顔と弾む声。
響く音楽、部屋では暖かく灯るキャンドル。
ツリーに飾られた煌びやかな装飾が、白い雪に揺れる。
すべての人に優しい、聖職者が生まれ。いくつもの奇跡が起こる、聖なる夜。
天使の祝福と、神の光に包まれる日。
だから、今晩位。
僕は休みを取ったって、いいでしょう?
こんな日に、涙など似合わない。
落ちた雫を受け止める勇気もないのに。逆らう術さえ見つからないのに。
祈らずにはいられない。裏切った、かの方に。
どうか、僕に抗う力を下さい。
神よ・・・。
「どうした、こんなところで座り込んで」
少しでもこの祈りが届くように。
小さな村に佇む、賛美歌の響く教会の裏。
真っ白な壁に手を当て、膝をつき、入ることの叶わないその中へと想いを馳せる。
場所など、関係のないことは。僕が一番わかっていたはずだった。
神へ祈りを捧げるためにある、この場所に。
神が降りることはない。
それは、決定事項だったから。
気まぐれに天使達が、そこに奇跡と言う名の事象を起こすことはあっても。
神自身は、決してこの場所に姿を現すことはない。
地上に降り立つ、はずがない。
だから、僕はすぐに振り向けなかった。優しくかけられた、背後からの声に。
聞き覚えのある、ここにいてはならない人の声に。
「何故、貴方がここに・・・」
「うーん、何故かな・・・聖夜の奇跡、とか・・・どうだろうか」
「どうだろうか、じゃありませんよ」
恐る恐る振り向き、その姿を確認して。思っていた通りの姿が目に映る。
問いかける言葉は、確実に震えていた。
なぜならそこには。遥か昔に、僕から一方的に離れた、大切な元主人が立っていたから。
まるでここにいることが、ごく自然なことのように。穏やかな笑顔で。
「駄目かい?うーん、そうだな。じゃあ・・・」
「わかりました、もういいです。理由はもういいですから、早くお戻りください」
「そんなつれない事を言わないで、しばらく私に付き合ってくれないかい?」
「ご冗談を。僕のような者と貴方がご一緒するなど、許されるはずがありません」
「よし、じゃあ行こうか」
「話を聞いてください」
迷い無くこの穢れた手を取って、導くその背には。隠していてもわかる、輝く真っ白で大きな翼が見える。
けれどどうしてだろう。
以前のように、まばゆくて見つめられない。けれど目を逸らせない。
そんな雰囲気が、途切れ途切れにしか感じられない。
消え入りそうな位、その力が弱まる瞬間があるような気がする。
気を抜けば、闇に攫われてしまいそうな。そんな危うい瞬間が。
僕のような存在と一緒にいれば、その危険は強まるばかりなのは、考えるまでも無い。
そんな単純なことが、わからないような方ではない。
自分がいなくなれば、世界がどうなるか。それを考えない方なわけがない。
ならば、何故。
「どうしたんだい?怖い顔をして」
「離して下さい」
「嫌だ」
「・・・っ」
導かれるように歩みを進めていた足を止め、うつむいたまま。
ありったけの勇気を出して、掴まれた手を離してもらうために告げた言葉は。
驚くほど即座に却下された。
弾かれるように顔を上げると、そこにはまっすぐに僕を見つめる瞳。
この方を、失うわけにはいかないのに。
穏やかで、万人に平等で、優しい優しいこの方が。
こういう表情をする時。
僕では決して、考えを変えさせることはできない。
かみ締めた唇から、鉄の味がする。
どうしたらいいのだろう。
「すまない。私はいつも、君には我が儘ばかりだ」
「え・・・」
「どうしてかな。こんな風に甘えてばかりだったから、愛想をつかされてしまったのかもしれないね」
「違いますっ。僕が貴方の側を離れたのは・・・」
悲しそうな顔で、辛そうな顔で。
そっと離そうとするその手を。咄嗟に僕の方から掴んでいた。
わかっていたのに。僕がこの手を取ることは、誰も幸せにしない事は。
けれど、決して離される事がないと思っていたその手を。あまりにも素直に離そうとする事が、不自然に感じて。
どうしてだろう、ほっておけない。そう思ったんだ。
僕なんかいなくたって、駄目になる方じゃない。
むしろ僕が離れた方が、きっとこの方の為なのに。
側にいなければ。と、思った。
「ありがとう」
「あの・・・」
「どういたしまして」
妖艶に響く声が、僕の言葉を遮って放たれる。
途端、嬉しそうな笑顔が視界から消えた。
崩れ落ちていくその身体の向こう側に、僕の今の主人の姿が見える。
真っ黒な翼の、巨大な闇を纏う。今日この日に、一番似合わない方。
「・・・我が、君」
「ご苦労様、よくやったわ」
足元に落ちる、その姿を捉えられなくて。その勇気がなくて。
呆然と。赤に染まった鎌を手にする、主人を見つめることだけで精一杯だった。
「何故」
「何故?愚問ね。今日の仕事は伝えておいたはずだけれど」
可笑しそうに笑う主人の言葉に、動こうとしない頭を少しずつ回転させようと試みる。
聖なる夜。
光溢れるこの日だからこそ、奪える力がある。
奇跡は、すべての者に平等に。その機会が与えられるのだから。
地上に堕ちた、小さな光を我が手に。
その手伝いを。
「僕は、引き受けるなんて・・・」
「断れるとでも思っていたの?」
「そんな・・・だけど、小さな光なんて比喩。この方に当てはまるはずが」
「無い、とでも?」
射抜くように見つめられて。途切れがちだった力の意味に気付く。
地上に「堕ちた」小さな光。
僕の知っている態度とは、違う行動。
決してこの場所に姿を現すことはない。地上に降り立つ、はずがない。
神様ならば。
「そんな・・・」
「そうね、離れたと言っても貴方の元主人ですもの。別れの時間位は、与えてあげるわ」
今晩の仕事は、これでお終いにしてあげる。
そんな言葉と共に、姿が闇に消える。
貴方の為に、側を離れたのに。
貴方の為に、光を捨てたのに。
追いかけて欲しかったわけじゃない。追い詰めるつもりじゃなかった。
こんな日に、涙など似合わない。
落ちる雫のいくつかは。確かに止められたけれど。
こんな風に、願いを叶えて欲しいわけじゃなかった。
自分を犠牲にするなんて、貴方らしくてどうしようもない。
ゆっくりと、信じられない思いを胸に。視線を下ろして行く。
きっとそう、そこにはあの頃の笑顔があるはず。
他の皆の前では、一生懸命完璧な姿を保とうと努力している貴方の。
僕にだけに見せる、我が儘に甘える笑顔が。
聖夜の奇跡が起こることを、切に願って。いつの間にか途切れてしまった賛美歌を、口ずさむ。
僕の、神よ・・・。
END
【反省文】
どどどど、どうしよう・・・。暗い?暗いですよね・・・おかしいな。
なんで「クリスマス」なんていう明るい事しか浮かばないようなテーマで、こういうことになるのかしら?
途中までは、そこはかとなく明るい雰囲気だったんですけど、どうしちゃったんでしょう(知るか)
今回こそは、明るい話を!って、頑張ってたつもりなんですが。
あたしの表現力に奇跡は起こりませんでしたが(笑)彼らには、奇跡が起こるといいですね。
いや、きっと起こりますよ(でもそこまで書かない。えー・・・)
折角のクリスマスに、沈んじゃったらごめんなさい。
お付き合い、ありがとうございました。ではでは、ハッピークリスマス♪