「眠れないのか?」
なぜそう思ったのか。
さっきまで後ろで確かに聞こえていた寝息。
そして彼女がベッドに入ってからたった時間を考えると、今は深い眠りに落ちていると考えて問題は無い。
それでも寝返りをうった彼女に声をかけてしまったのは、自分がそうだったからかもしれない。
「・・・・ルーシリア?」
返答が無い。やはり寝ていたのかと考えて、小さな声で名前を呼んでみる。
2つベッドが並んだ部屋。あまり広くもない宿屋のその部屋では、十分に声は聞こえているだろう。
暗闇でしばし気配をうかがう。
「眠れるわけ、ないのかもしれないわね」
かちりと言う小さな音ともに、室内がほのかに明るくなる。
ベッドの間にある小さなローテーブル。
その上に置かれている間接照明が、ルーシリアの手によってつけられたのだ。
「アディスも同じかしら?」
「・・・・」
かけられる言葉に溜息をつき、そしてそれまで背を向けていたもう一つのベッドの方を向く。
ベッドの上に起き上がり、こちらを見て苦笑を浮かべている少女。
明かりに照らされた彼女のその笑みに、アディスも体を起こす。
「大丈夫だ」
思わず漏れた言葉。その言葉に、ルーシリアの瞳が僅かに見開かれる。
「準備は整った。『隠された聖地』の場所はつかんだ。そこへ続く封印をとくための水晶も全て
手に入れた。・・・・・あとは、明日に備えて休むだけだ」
「分かってるわ」
告げられる言葉に、さらに笑みが深くなる。
お互い、分かってはいるのだ。そういう、単純な言葉で片付くものではないということを。
そういう類の心配事で眠れないわけではないのだ、と。
「緊張、しているのかしら」
自分自身に問いかけるように言う。
「あるいは、不安なのかもしれないわね」
「・・・・・」
胸の前で祈るように手を組み、目を伏せるルーシリアを黙って見つめる。
「私たちの力で勝てるのか、この国を救えるのか。・・・・そして、生きて戻ってこられるのか」
「ルーシリア!」
最後の方の言葉は、アディスによって遮られる。
彼がもっとも嫌う言葉だということは分かっていた。言葉にしてしまえば、現実になるかもしれない。
信じることが大事なのだと、そう考えている彼にとって、自分の言葉は気に入らないものだろうと
いうことも分かっていた。
それでも、口にせずにはいられないのだ。・・・・アディスが、怒ってくれるとわかっているからこそ。
たとえ言葉にしなくても、そんなことはないと否定してくれるから。
「早く寝ろ。・・・・・体調を整えないと、お前の言葉は現実になりかねない」
ばさっと音を立てて布団にもぐりこむアディス。
そのまま自分に背を向けてしまった彼に、もう一度小さく笑う。
「そうね。・・・・・おやすみ、アディス」
かちりと音がして、部屋に再び暗闇が戻る。
死ぬかもしれない。その思いはどちらの胸からも消えることはない。
それは、旅を始めたときから分かっていたことであり、今も眠ることが出来ないほどに彼らを苛んでいた。
それでも、もう引き返せないと分かっている。進むしかないのだと。
・・・・二人に出来ることを、やるだけなのだと。
たとえ、それがどのような結果になろうとも、後悔だけはしないように・・・。