「雪か」
窓の外を見て、思わずポツリと呟く。
カタカタと時折音を立てる窓。外では、静かに雪が降り続けていて。
世界を、銀色に変えようとしていた。
「何年ぶりかの雪なんですって」
「・・・・・」
音も立てずに部屋に入ってきた人物に。聞こえたその声に、後ろを振り返る。
そこにいたのは、一人の少女。彼の相棒であり、大切な存在でもあるルーシリア。
彼女のが持ってきたトレーの上には、暖かそうな湯気の立つカップと、小さなケーキが置かれていた。
「出かけたついでに買ってきたの。アディス、甘いもの大丈夫よね?」
「・・・・・・ああ」
うなずいた彼の、アディスの前にあったテーブルにトレーが置かれる。
小さなケーキはシンプルで、生クリームでデコレーションされて、上にはイチゴが飾ってあるだけのケーキ。
それでも二人で食べるには十分の大きさで。
湯気の立つ飲み物は琥珀色をした紅茶だった。
それまでなかった甘い香りが周囲を満たすのを感じて、知らずにほっと息を吐く。
「どうぞ」
「・・・・・・」
差し出された銀色のフォークを受け取って。
目の前に座って、紅茶を冷ますために息を吹きかけているルーシリアを見て。
どうしたの?とでもいうように首をかしげる少女に溜息をついてから、ケーキを口にする。
「・・・・どう?」
「・・・・・・・・・美味しい」
口の中いっぱいに広がる甘さ。けれどそれは決して嫌な甘さではない。
控えめで、けれどまたすぐに食べたくなる美味しさだった。
「よかった」
アディスの言葉に。ふわりと微笑むルーシリアのその笑顔に。
いうべきかいうまいか悩んだ言葉を、口にしようとして、その言葉をケーキと一緒に飲み込む。
黙々とケーキを食べて、そして紅茶を飲むアディスを微笑んでみているルーシリア。
彼女が何を考えているのかは分からない。けれど・・・・。
「雪、明日にはやむみたい」
「そうか」
「でも、寒いだろうから・・・・山越えするには少し危険かしら」
「危険の基準は普通、寒さじゃないと思うが」
「・・・・・そう?」
本当にそう思っていそうな、不思議そうに首を傾げられ。
小さく溜息をつく。
この先にある山を越えて東に向かう。
冒険者たちですら、生きて帰ってくるものは少ないといわれる危険な『嵐の山』を越えるのには理由がある。
山を越えるために、体力と雑貨類を補充しようと言い出したのはルーシリアで。
本当はあまり時間がなかったのだけれど。
それでも彼女の体力のことも考えて立ち寄ることにした町で降り始めた雪。
季節的には珍しくはないが、この地域が、雪など降る地域ではないことは、一般的知識として知っている。
「いろいろな意味で危険な山だ。・・・・・けれど、いかなきゃいけない」
「そうね」
それが、自分たちの使命だから。
「でも、今日ぐらいはいいと思うの。ゆっくりしても」
「・・・・・・・・・・」
顔を上げれば。窓の外を、降り続ける雪を眺めているルーシリアの横顔に。
「・・・・・そうだな」
そう呟けば。
ふわりと。アディスが大好きな、ルーシリアの笑顔が返ってきた。
恐らく、彼女は覚えていたのだろうと。
だから、時間がないにもかかわらず、町でゆっくり休むことを選んだのだ。
この町である必要があったわけではない。
『今日という日にゆっくりすること』が、彼女の目的。
気づいたのは、ケーキを見た瞬間だった。
自分でも、忘れていた。けれど、忘れられない日でもある。
数年前のこの日。アディスは、すべてを失った。けれど、数年後のこの日。
偶然にも同じ日に、ルーシリアとであった。
「ありがとう、ルーシリア」
「・・・・・どういたしまして、かしら?」
アディスの気持ちを汲み取ったルーシリアが答える。
少しぬるくなった紅茶は、それでも気持ちを落ち着かせてくれる。
目の前の彼女の言葉と笑顔がもたらす効果と似ていた。
雪がやんだら、また穏やかとは程遠い日常が始まる。
その日まで少しだけ、ほんの少しだけでも過ごす穏やかな時間。
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えーっと。暗くはない、ですよね?(笑
はるかさんの作品を見て、じゃあこっちもやってやろうじゃないのという感じで。
クリスタル・ファンタジア外伝でお送りしました。
懐かしいですねー、このシリーズ。今回書くにあたり読み返してみて思ったこと。
意外とこれ、面白いんじゃない?(今更・・・・笑)
ありがとうございました。そして、2周年。応援ありがとうございます!