雪が降っていた。
夜中降り続けていた雪は、町を一面の銀世界に変えていた。
呼び出されたのは、そんな雪の朝だった。
まだ誰もが寝ていそうな、静かな朝の町で。
「メリークリスマス」
「・・・・・」
にっこりと笑う『彼』に、さてどうしたものかと考える。
街の外れの、小さな東屋。めったに人の来ないその場所に、彼がいることは別段珍しいことではないのだが。
「風邪、ひきますよ?」
自分でもどうかと思うのだが、思わず出てきた言葉は溜息とそれだった。
「だってほら、クリスマスだから」
文脈が繋がっていないと感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
人当たりのいい笑みを浮かべ続けている彼に、何を言っても無駄だということは経験上分かっているのだが。
「何の用ですか?」
「だから、クリスマス」
昨日がイブで、今日はクリスマス。
今はまだ朝早いが、子供たちが目を覚ます頃にはサンタクロースからのプレゼントが届いている時間だろう。
彼女も教会という場所で働いている関係上、昨日はミサだとか祈りを捧げに来る人だとかの応対に追われていて忙しかった。
「今ぐらいしか、時間取れないから」
忙しいことは分かっているだろう。すまなそうに言う彼に、それは仕方ないだろうと考える。
特に会えることを期待していたわけでもなく、何をするでもなく。
ましてや、会うことが前提になるような関係でもないのだが。
「で?本題は?」
吐く息が白い。
手に息を吹きかけながら言う彼女に、ベンチから立ち上がる。
頭二つ分ほど高い彼を、どうしたのかと見上げる。
おもむろに、息を吹きかけていた手をつかまれ。ポケットから取り出した小さな腕輪が、手首につけられる。
「・・・・・・これ・・・・」
銀色の細い鎖と。それを繋ぐようにある赤と、青の小さな石。
石に刻まれた模様と、鎖の輝きと。
つけていてもまったく重さの感じないそれが、ただの腕輪ではなく護符であることを悟る。
どういうつもりかと見上げた彼女に、向けられていたのは満足げな笑みだった。
「クリスマスプレゼントだよ」
笑顔と言葉と、腕を飾るそれを見比べて。そして溜息を吐く。
「仮にも神殿の巫女が、こんなのつけていられるわけないじゃないですか」
今は抜け出してきたため普段着だが。それでも普段は巫女としての正装があるわけで。
そこにこんなアクセサリーなどつけることはできない。下っ端である彼女には、特に。
「隠せないかなぁ・・・できるだけ目立たないようにしたつもりなんだけど」
腕輪に触れながら言う彼に、本気なのだろうと。
「袖の下に入れてしまえば、問題ないだろう?つけていないと意味ないし、多分・・・つけていたほうがいいから」
お守りの意味合いとしてはそうだろう。けれど、それにこめられている別の意味を感じ取り、黙り込む。
気休めなどではない、本当に『護符』の力を持つそれは、一般に流通しているようなものではない。
彼女の持つ『事情』を知っているからこそ、彼はこれをくれたのだろうと。
「でも、どうして・・・・」
そっと、腕輪を押さえて呟く。
その呟きに、少し考え込むようなそぶりを見せて。
「俺がいないところで、何かあった時に分かるようにね」
「・・・・・」
側にいて守ることができれば、それでいいのかもしれない。けれど、立場上それは不可能に近い。
彼はこの国の王子で、彼女は神殿の一巫女で。連絡を取ることすら、普通にはできない。
会いたくても、こうして人のいない時間と場所を探さなくてはいけない。
うつむいてしまった彼女の手がつかまれて、そっと腕輪ごと手が握り締められる。
「大丈夫。君は俺が護る。そう、約束しただろう?」
顔を上げると、そこにあるのは優しい笑みで。
昔に交わした約束を、彼がずっと護ろうとしてくれていることが嬉しくて、そして悲しくなる。
その手を引き寄せて、抱きしめられても。
その腕の中を、温かいと感じることは本当は許されないことなのだと分かってはいた。
「クリスマスだから、いいだろう?」
離れようとした彼女の身体を、離すまいと力が込められる。
顔を上げた彼女の頬にそっと手が触れ、そのまま小さく口付けが落とされる。額に、頬に。そして、唇に。
寒いはずなのに、触れた箇所が熱く熱を持つのを感じる。
「・・・メリークリスマス」
ようやく少しだけ笑顔で、その言葉を返す。
返事として落とされた口付けは、今度はすぐに離れることはなかった。
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はるかさんのクリスマスが暗かったので、頑張って明るくしてみました。
ラブラブカップルの話を書いてみました。ほんわかクリスマスです。
ホワイトクリスマスが好きなんですね。雪とクリスマスってすっごくキレイなイメージなんで、それをもとに。
彼女の持つ事情とかその辺は多分ものすごく暗いと思います(笑
でも、とりあえず無事完成。ありがとうございました!